久シン祭2024 開催レポート
「五感で味わう懐かしくて新しいお祭り」

丼池ストリートの3つのビル、9つのテナントが参加する久シン祭

「久シン祭のレポートを書いてほしい」と声がけをもらったとき、これはぜひ僕が書きたい! と思った。今から10年ほど前、会社員だった僕は久シン祭が行われるこのまちで働いていたからだ。実は当時から株式会社 枠(このイベントの運営をしている会社)の皆さんとはずっと縁があって、今回も遊びにおいでよと誘ってもらった。

久シン祭は今年で二年目。お祭りのネーミングはおそらく久太郎町の「久」に、「久しい」とかの「久」をひっかけて、新しいの「シン(新)」と掛け合わせたものだと思う。昔と今、変わったものと変わらないもの、そんな名を冠するお祭りのレポートを書くので、自分と重なることも多く気合いが入る。

今年のテーマは「五感」。丼池繊維会館、OSKビル、WRAPビルという3つの建物でさまざまな出店がおこなわれており、視覚だけでなく鼻や耳も総動員して楽しめるとのこと。テーマに沿って五感をフル活用してお祭りを楽しんで、読んでくれる皆さんにも五感で得たものをおすそ分けできるようレポートしてほしいとバトンを渡されている。みなさんにも画面を目で見るだけでなく、鼻や耳の感覚も研ぎ澄ませて読んでみてもらえると嬉しい。


レポーター:嶋田翔伍(しまだ・しょうご)
1991年3月京都生まれ。ひとり出版社・烽火書房(ほうかしょぼう)代表。京都のろじの本屋・hoka books店主。新卒の頃、本町駅近くの出版・制作会社で編集者として勤務。退職後、京都府下の市町村にて地域おこし協力隊を経験し、現在に至る。鋭い感覚は味覚、好きなオノマトペはペロリンペロリン。


「どんいけ」と書いて「どぶいけ」と読みます

ということで久しぶりに訪れたのは、久太郎町、丼池ストリート。11月25日(月)から12月1日(日)の一週間の開催期間中、30日(土)のお昼すぎの訪問になった。ストリートを一目見るだけで、わかる。「あの頃よりも、お店の数が多い!」。このあたりはビジネス街だが、堺筋本町から本町まで東西にまたがって、船場センタービルという、繊維中心の卸売店と飲食店が入居する建物がある。独特の賑わいがあるのだけれど、丼池ストリートあたりは少しお店が少なかった印象で、その変化に驚く。

「予感」のするお昼どき

1. チョコとカレーのハーモニー―yohaku
12時前のお昼どきに到着したこともあって、すぐさま、OSKビル1階のレストラン「yohaku」へ。お昼はカフェ、夜はフレンチへと姿を変える人気店で、今回は久シン祭に合わせたコラボメニューがいただける。コラボメニューはなんと「鴨とチョコレイトのカレー」!

なんとなく、鴨は想像できる、美味しそう。けれど、チョコレイトはどういう感じなのだろう。隠し味でわからない程度に入っていて「味に奥行きがある」みたいな? 注文して、目の前に運ばれてくると、思いがけずチョコレイト感のある見た目を視覚で捉える。

チョコにもカレーにも見える。副菜にはザクザク食感の野菜

さっそく口に入れてみると、びっくり。濃度というか舌触りはチョコレイトそのもの、カカオの味が広がって、上品なチョコを食べているという感想。……なのだが、すぐさま、口の中には「美味しいカレー」が広がっている。そして最後にふんわりとまたチョコの味がした。

チョコなのにカレー。カレーなのにチョコ。このトリックのような味わいと、確かな美味しさに、今回のテーマ「五感」には、生半端な態度では対峙できないと、教えてくれる予感めいた一皿だった。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1-22 OSKビル 1階
yohaku

2. リズミカルにチャイを飲む―Akash Cafe

イケてる店主のシャドさん

つづいて同じくOSKビルの隣のお店「Akash Cafe」へ。シャドさんが営むチャイ専門店。2か月に一度の頻度で変わる季節限定のチャイを楽しむことができる。今回のタイミングで合わせて提供されているのは「ハニーアップルチャイ」。11月末とはいえ少し汗ばむ日に、こっちはカレーを食べたばっかりだから嬉しいアイスチャイだ。開放的で居心地のよい空間、音楽もリズムがいい感じで、なんだか心が躍る。

「ハニーアップルチャイ」は、アイスチャイにはちみつとクリーム、それからドライアップルが乗せられた一杯で、泡の感じがたまらない。

見てくださいこの泡の立体感

これはもうデザートといってもよい。なめらかで甘いチャイにたどり着くころには、唇は泡まみれ。やわらかに触れるその感覚が思いがけず楽しい。少しだけ周りの目を気にしつつ、ヒョイとドライアップルをつまみあげ、口に放り込む。ふんわり優しいクリームとチャイにアクセントを与えてくれるザクザク感。陽気なBGMに身をまかせ、ザクザクとドライアップルを噛んでリズムを取って遊んでみる。久シン祭を全力で楽しむと決めた今日、良いリズム感で次の店へ!

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1-22 OSKビル 1階
Akash Cafe


鋭い「嗅覚」を養う

3. 懐かしくて新しい香り―People Care. Planet Care.
少し移動して、いったん丼池繊維会館へ。かつてこのまちで働いていたときから見覚えのある外観。いざ足を踏み入れるとモダンでクールな内装だ。2階のPeople Care. Planet Care.に入ると、懐かしさとフレッシュさを感じる香りで、食後のまどろみを引き締めてくれる。ここは香りのお店。店内中央にズドンとインスタレーションのように、アイテムが並べられている。視覚的にも訴えかけることが香りのお店としては重要に違いない。実際、僕も一気に心惹かれた。

外からの光と台の明かりも香りを引き立てる

お店の名前からもわかるように、プロダクトのその先、日々のケアと環境の保全を結ぶような取り組みを行っている。繰り返し使うことのできる備前焼の器に入れられたアロマキャンドルは、花のように広がる紙の包みで華やかにパッケージされている。これは日本文化の「おひねり」から着想を得た包装だという。

そして購入できるアロマの香りはずばり「場所」。「これは何の香りですか?」と聞いてみると「旧閑谷学校です」とのこと。「花の香りです」とか「果物の香りです」みたいな返事があるだろうと思っていた僕は、二度見ならぬ二度聞きする。それでもやっぱり学校の香りだという。それぞれGPSの座標が印字されていて、ある場所の匂いを再現したものだということがわかる。なるほど、それで、懐かしさとフレッシュさを感じたのかと想像する。なんだか「久シン祭」と相性バッチリな香りだ。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1-16 丼池繊維会館 2階
People Care. Planet Care.

4. 世界を結ぶ糸―INSIDE MY GLASS DOORS
同じく丼池繊維会館、1階路面のINSIDE MY GLASS DOORSへ。こちらはファッションのお店で、イベント開催時には「世界のニット展」が行われている。店内には色とりどりのニットがたくさん用意されており、視覚的にも賑やかで楽しい。ニットと一言で言っても、編まれている目の細かさが違っていて、見飽きることがない。

いろんな太さで編まれたカラフルなニット

お話を伺うと、ここに並べられたニットに使われている糸の原産国は、世界各国さまざまなところらしい。例えばモンゴル、チベット、フランス。「やっぱりニットは暖かいものなので、寒い地域のほうが種類や工夫が多いのかな」などと思考を巡らせてみる。
ちなみに昨年は「時計の健康診断」と銘打った展示を行っており、前段でファッションと平たく言ったものの、その幅広さにワクワクしてしまう。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1-16 丼池繊維会館 1階 
INSIDE MY GLASS DOORS

5. 降り積もる本の世界―toi books
OKSビルに再び戻り2階奥の書店、toi booksへ。こちらのお店へは何度か足を運んだことがあるけれど、久しぶりの訪問に胸が高鳴る。こう見えて僕は本好きなのです。店主の磯上さんとのお話をそこそこに本棚を眺める。

よい本は答えだけでなく、問いを与えてくれる

toi booksは文芸書がたくさん揃う書店。新刊古書問わず選書されていて、入って右手の壁面の棚には、ひと区画ごとに「記憶はどこにある」「不思議に触れる」など、ユニークな切り口で選書がされていて、思いがけない本との出会いができる。久シン祭に際しては、本の購入時に「降り積もるもの」と題されたポストカードを特典としてもらうことができた。詩的で素敵な題だ。

ポストカード裏面には雪や冬にまつわる15冊ほどの本の紹介と推薦文が書いてある。この冬は家にこもって、おすすめの「降り積本」を読もう。本の匂いってなんとも落ち着く。嗅覚にも、もちろん視覚的にも楽しい。ついでに触れる紙の手触りもたまらない。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1-22 OSKビル2階
toi books


個性がより集まる場所「五感マーケット」

6.エスプレッソとラテのコンボ―aoma coffee
本と相性の良いものはたくさんあるけれど、その代表的なもののひとつが珈琲。食後いくつかのお店を巡り、本も購入したところでやってきたのは、WRAPビル1階、路面に店舗を構えるaoma coffee。店の奥には大きな焙煎機があり、香ばしい匂いが漂ってくる。おやつどきくらいの良い時間でお客さんも賑わっている。

週に3回程度稼働する焙煎機

aoma coffeeでは、イベントに合わせて「エスプレッソコンボ」が提供されている。コンボとはどういうことかというと、エスプレッソとラテが楽しめる2杯セット、ということだった。知っている人は当たり前に知っているし、知らない人は案外知らないので説明すると、コーヒーとミルクを混ぜたものがカフェオレで、エスプレッソとミルクを混ぜたものがカフェラテ。ということで、今回のコンボセットは、ウイスキーをロックで飲んだあと、ソーダ割りにしてもらうような感じだろうか。元の濃厚な旨味をそのまま味わったあと、飲みやすい方法でもいただける、いわば「飲み比べセット」だ。

グイっと飲んでもよし、砂糖を入れてかき混ぜるもよし

まずは先にエスプレッソをいただく。お話を聞いてみると、エスプレッソはシンプルな分、ごまかしが聞かずバリスタの腕が問われるという。一口飲んでみて、その濃厚さ、というよりもはや柑橘類にさえ感じる酸味に驚く。これがまた美味しい。つづいてラテ。ふんわり優しく、それでいて濃厚で温まる。エスプレッソとラテを一緒にいただくのは初めてだったが、これはハマりそう。いつもあればいいなあ。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目4−2 WRAP/英守大阪ビル1F
aoma coffee

7. 予想だにしないツーマンライブ―nuance design
さてここからはWRAPビルを上へ上へと駆け上がる。WRAPビル上階の出店は「五感マーケット」と題されたフリーマーケットで、2階は視覚と聴覚、3階は味覚と嗅覚、4階は触覚と第六感を中心にしたコンテンツが用意されているという。五感マーケットの名にふさわしい、感受性を刺激されるビルといってよいだろう。感覚過敏になってしまわないよう、慎重に階段を登ったほうがよさそうだ。

まずは2階のnuance designへ。同社はMAスタジオ/音楽制作会社。MAスタジオというのはざっくりいうと音の収録ができるスタジオ、みたいな感じ。玄関そばでは、電子機器類の販売がされている。代表の宮坂さんの私物や使わなくなった備品で、かなり専門的なガジェットから、ちょっと身近な機器までが出品されていて「こういう中にはたいていお宝があるんだよな」と目を輝かせたところで、奥がにわかにざわつきはじめる。吸い込まれるようにして、2階奥、収録室に入室する。超クールなプロの機材に目をやる暇もなく、目の前では少年がDJとして宇宙みたいなそのフロアを沸かしている。

フロアマスターの少年

こちらはDJ体験ブース。彼は一日に何度か足を運んでいるらしく、数時間のうちに見るみるうちに、名DJへと成長したという。この日、たまたま周辺を歩いていた海外のDJがこの場所に吸い込まれて曲をかけていたようで、さしずめ少年とプロDJのツーマンライブと言ってもおかしくないだろう。

おでんやカステラも。所狭しと出店があるのが面白いポイント

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目4−2 WRAP/英守大阪ビル2F
nuance design

8. 人がつながる美容室―tokitowa
3階は、美容室のtokitowa。今回は知り合いなどに声をかけて、いくつかの人たちが出品している。味覚や嗅覚を中心にしながら、ファッションアイテムなども販売される賑やかなフロア。普段からものづくりにかかわる人の出入りも多く、リースのワークショップを行ったりもしているユニークな美容室だ。

出店中のTARAHAさんはハーブのお店。アメリカのフロリダや、インドで仕入れてきたというハーブを配合し、唯一無二のチャイやお茶を販売している。配合しているハーブが実際に並べられており、それぞれの個性がみてとれる。例えば「Ayurvedic Chai Mix」の説明冒頭には「オーガニックのトゥルシーをメインリーフに10種類のスパイスを調合」とある。トゥルシーはシソ科の植物で、インドやネパールで栽培されているようだ。世界中の植物をかき集めて配合するのは、すごく刺激的で面白そうだなと感じる。植物が混ぜ合わせられたチャイやお茶は、まるで世界の多様性そのものみたいな広がりがあるんだろうな、と異国に思いを馳せる。

チャイとお茶のオリジナルブレンドが並ぶ

小田原から出店中の小田原鉱石は、地元名産の柑橘をつかったシロップを販売。栽培時には、収穫する果物の味を良くし、病気や害虫のリスクも下げるため、いくつかの果実を間引いていく「摘果」が行われる。こちらで販売しているのは、摘果された柑橘類でつくられたもの。シロップを使ったソーダをいただく。環境的であることはもちろん、渋さや青さがちょうどよい苦味になって味に立体感があって美味しい。レモン、ライム、すだちなどがミックスされていて、それも深みを与えてくれる。

摘果のシロップにポップコーンも

そういえば、TARAHAさんのハーブもミックスされていたし、このシロップもミックスされている。「なんだか個性を寄り合わせることって楽しいなあ」と嬉しい気持ちになる。もちろん、この場所もそうだ。隣ではBaumがランチボックスやサンドイッチ、mokuが無添加の焼き菓子とごはんを販売している。下の階、上の階、向かいのビルでは……。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目4−2 WRAP/英守大阪ビル3F
tokitowa

9. オノマトペで楽しむフリーマーケット―waku.inc
ようやく最上階、株式会社 枠の事務所は、五感マーケットの集大成。普段から事務所に出入りする人々が、思い思いに商品を出品。商品はどれもおそろいの白い紙袋で包装されていて、中を伺い知ることができない。品物が何かは予想するしかない。想像する手がかりは二つ。カードに書かれたオノマトペを読むことと、触れてみること。

小さく空いた穴から中身に触れられる
「もこもこ」「キュンキュン」「わくわく」

ドキドキ、ワクワクなんていうストレートなオノマトペもあれば、アレアレとかクイクイ、みたいな想像つかない言葉まで。まずはそんな説明文を読んでみて、次は、小さく開けられた丸い穴からほんの少しだけ品物に触れることができる。それでも何かわからないものもある。「それは第六感で予想しましょう」ということらしい。僕はファッショナブルな男なので、ファッショングッズを狙って買ってみた。すごく嬉しいムーミンのミイのカバンと、(野球知らないので)全然嬉しくないユニフォーム、それと謎の満足感でたっぷりだった。

〒541-0056 大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目4−2 WRAP/英守大阪ビル4F
waku.inc


好きこそものの上手なれ

こうして久シン祭を満喫した。常々「雰囲気をつくる」ことの重要さみたいなものを痛感する日々を僕は送っていて、今回、久シン祭を思いっきり楽しむことができたのは雰囲気によるところも大きいと感じた。例えば、各店で、クイズが設置されていて、赤いシートを使って答えを読むことができるようになっていた。動作も楽しいし、そのお店の秘密がわかるのも嬉しい。

答えを読むための赤いシートは、一個一個カッターで切ったらしいですよ

ビルと道が立体的に描かれたメインビジュアルは、目を引くとともに、案内図になっていて次にどこに行こうかと胸が高鳴った。天井からぶら下げられたオノマトペやテキストが、楽しみたい自分の背中を後押ししてくれた。細かいところまでユニークなポイントがたくさんあって「すごい手間ひまがかかっているなあ」とその苦労を想像するが、なにより「つくっている人たちがお祭り好きで楽しんでつくっちゃったんだろうな」と笑えてくる。

なんだか懐かしい。「そうだ、これは文化祭、学園祭だ!」と久しぶりに母校に戻ってきたような気持ちになる。同時に、道を挟んで、各店が協力しあうマーケットは見たことがない新鮮さ。

久しぶりに訪れたこのまちで、懐かしさと新鮮さを浴びる、そんな一日が僕の「久シン祭」となった。来年はどんなテーマで、新しい景色を見せてくれるのだろう。具体的なシーンは思い浮かばないけれど、一日を通して五感を磨いた僕には、「きっとうまくいく」ということだけ直感的に確信できた。

歩行者の目線を気にしながら締めくくりの写真に写る僕

▼記録映像はこちらから
https://youtu.be/-1nO9E6mi6I

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